ウイルスの弁明 2020 5 31
書名 生物はウイルスが進化させた
著者 武村 政春 ブルーバックス
近頃、ウイルスの評判が悪い。
インフルエンザウイルスにコンピューター・ウイルス。
最近では、新型コロナウイルスまで加わった。
確かに、ウイルスの行動を見てみると、
何か悪さをしているように見えます。
空き巣が、留守宅のドアが開かないか動かしてみたり、
ドアの鍵穴に変なものを差し込んで鍵を開けて、
家の中を荒らしまわり、裏口から出ていく様子は、
確かに、悪さそのものです。
ウイルスが細胞膜に取りつくと、
細胞の貪食機能によって細胞内に取り込まれていく様子は、
まるで宅配便を装った強盗にも見えます。
あるいは、なかなか中に入れてもらえないウイルスが、
細胞膜を溶かして侵入していく様子は、
窓ガラスの一部に穴を開けて侵入する空き巣のように見えます。
しかし、人間に「悪さ」をするウイルスは、
1割もないかもしれません。
たいていのウイルスは、人間に対して無害かもしれません。
あるいは、有益なものがあるかもしれません。
もしかすると、ウイルスは、細胞に、
DNAやRNAという情報を運搬する仕組みだったかもしれません。
我々人間のDNAの一部には、
ウイルスが運んできたDNA、
あるいはウイルスのDNAが組み込まれていると聞いたことがあります。
もしかすると、細胞の中にある細胞核は、
進化の過程で、ウイルスが作ったかもしれません。
あるいは、シンプルな構造で構成されるウイルスは、
複雑な構造を持つ細胞の原型となったかもしれません。
どのような経緯をたどったのかは、
神に聞いてみないとわからないかもしれません。
「そのような細かいことは、進化担当の大天使に聞け」と言うかもしれません。
さて、著者は、「巨大ウイルス」の専門家です。
なぜ、「巨大」というタイトルをつけたかというと、
普通は、ウイルスは極めて小さいので、
電子顕微鏡を使わないと見えないのです。
ウイルスより大きい細菌は、光学顕微鏡で見えます。
つまり、光学顕微鏡で見えるものは、細菌と言えます。
ところが、近年、光学顕微鏡サイズのウイルスが、
世界各地で発見されたのです。
最初は、その大きさから「細菌」に分類されたそうです。
しかし、「細菌」に存在するものがないうえに、
その「生態」がウイルスに似ていて、
「これは、ひょっとするとウイルスではないか」ということになったそうです。
そのほかに、何が巨大かというと、
サイズだけでなく、ゲノムサイズが生物並みに巨大であるのです。
こうなると、ウイルスは生物ではないと言われてきましたが、
「生物」に加えてもよいような気がしてきます。
今のところ、ウイルスは「非生物」とされます。
なぜかというと、ウイルスは、代謝を行わない、
自己増殖ができないという理由で、生物とは見されていないのです。
さて、著者が休日に河川敷で、
「トーキョーウイルス」の発見に至った経緯については、
小説風に書いてあって興味深いものがあります。